最後の壁 | アフリカ大陸リアルタイム旅日記

アフリカ大陸リアルタイム旅日記

アフリカ大陸を彷徨うバックパッカーが、旅の様子をリアルタイムに報告します。


9ヶ月間の海外旅行を終えて日本の空港に到着した時、私は旅の最後の壁と対峙することになった。今回の長旅の間、数多くのライバルと戦い、幾多の困難を乗り越えてきた私であったが、その私にとってさえ、この最後の難関にはかなりの恐怖を感じるのを認めないわけにはいかない。暗黒大陸と呼ばれるアフリカに滞在していたときでさえ、私にここまでの恐怖を与えたものはいなかった。この最後の敵は言うならば最強、相手にとって不足はなく、壮大な旅のラストを飾るにふさわしい。


ちなみに最後の敵の名は、正式には「入国審査」「税関」というのだが、長旅をするバックパッカーの間では、日本というゴールマウスを守護する彼等の仕事ぶりは何故かイタリア語で


カテナチオ


とも呼ばれていて、その鉄壁の守備はACミランのDFネスタとマルディーニに勝るとも劣らない。まさしく最後の双壁である。しかしながら、いかに相手が強大であろうとも私は絶対にあきらめない。読者には今まで秘密にしてきたが、私だってバックパッカー界のシュフチェンコと呼ばれているのだ。必ず彼等を突破して日本への帰国を果たしてみせるぞ・・・・・


と、息巻いてみたが、正直に言うと少しばかり気がかりな事もあるのだ。特に「税関」に対して。実を言うと私のバックパックの中には、


「無修正の〇〇本」


が入っているのだ。これは南ア・ケープタウンで購入したものである。そして読者の皆に伝えたいのであるが、これはもちろん日本にいる友人への土産物として買ったものである。もう何度もこのブログで言い続けてきたことであるが、私は幾つになっても少年の心を忘れない純情な男性であり、「無修正の〇〇本」などには全く興味は無い。旧知の友人から頼まれて、仕方なく購入しただけである。まあ、そんな説明はどうでもいいが、とにかくこの「無修正の〇〇本」は、ひょっとしたら税関で問題になるかもしれない。


かもしれないというのは、実に曖昧な表現だが、どうしてこのような表現をするのかというと、実は私は税関の仕組みとかルールとかに、あまり詳しくないのである。もっと言ってしまうと、どんなモノが持ち込みできて、どんなモノを持ち込んでイケナイのかが、よくわかっていないのだ。なぜなら、私の旅行はほとんど飛行機を使わない。最初の旅では日本からポルトガルに辿り着くまで行くまで一度を使わなかった。今回の旅ではエジプトから南アまで、やはり一度も使わなかった。だから税関チェックの経験が少ないというか、ほとんど無いのである。


「陸路の旅だって国境越えの時には税関のチェックはあるだろう?」


あるいは読者の中にはそう思う人もいるかもしれない。でも現実には違うのだ。前回のユーラシア横断でも今回のアフリカ縦断でも、僕は沢山の国境を越え、沢山のイミグレーションを通過した。その際に当然税関のチェックもあるにはあるのだが、国境越えの際の税関チェックというのは大抵の場合日本のパスポートを見せただけで、


「日本人ですね。オーケー、行っていいですよ。」


 とか言われて、バックパックの中身をチェックされたことは皆無に等しい。また場合によってはパスポートを見せる前に係りが私の顔を見て


「貴殿はスーパーバックパッカーであらせれる故、チェックは不要。どうぞお通り下さい。」


 などと言われることも多々あり、私にとっては税関などあって無い様なものだった。とにかくそういうわけで私は沢山の国を旅行しているわりには税関チェックの経験が少なくて、要するに「〇〇本」が日本に持ち込んでよいモノなのか、そうでないのかを知らないのである。もちろん普通の旅行者であれば日本へ向かう飛行機の中で他の乗客に、


「〇〇本って日本に持ち込んでも構わないんですかね?」


 と、質問できるからよいのだが、以前にも記事に書いたかもしれないが私はスーパーバックパッカーであり、どちらかと言えば旅行初心者から相談を受けることが私の職務であり、自分から人に教えを請うなど許されないし、何よりも飛行機の中で隣の席に座っていたのが若い日本人女性だったということもあり、
結局相談できずに日本へ到着してしまったのである。どうしよう・・・。


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そしてそんな悩みを抱えているうちに場所は既に到着ロビー。すぐさま入国審査の列に並ぶ。私は正直言って緊張しながら自分の順番を待っていたのだが、係員は私のパスポートを普通の旅行者の3倍くらいの時間をかけてチェックしたにもかかわらず、あまりのスタンプとビザの多さに日本出国時のスタンプを見つけられずに、私にとってはとても貴重な白紙のページに帰国のスタンプを押されてしまったものの、何とか入国は許可されることになった。当然といえば当然のことだが、とりあえず壁の1枚、ネスタはかわした。あとはマルディーニだけだ。


そのあと私はターンテーブルから自分の荷物をピックアップし、税関のゲートへと向かう。そこにはゲートがふたつあり、私はどちらへ進むべきか少しばかりの間考えた。私は酒は持っていない。タバコも1カートン以内だから問題ない。検疫が必要な食料品なども持っていない。だから私は


『 Nothing To Declare 』


 のゲートへ進んだ。一瞬脳裏に「無修正の〇〇本」が浮かんだが、その事は2秒で忘れて何食わぬ顔で係員にパスポートを提示した。そして係員は私の顔を見て、何故か怪しいものでも見るような表情で


「今回はどちらへ行かれてたんですか?」


 そう尋ねた。そして私は


「アフリカです」


 と、素直に答えた。すると


「アフリカのどちらのですか?」


 と、何故か更に追求してくる。一瞬私は何と答えたらよいのか迷ったが、私の旅は日本人なら誰でも一度はやる、高級ホテルに泊まって優雅に観光地を見学して美味しい食事をするだけのハイソなグルメ旅行であり、何ら恥じることはないので、エジプトから・・・


スーダン、エチオピア、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、タンザニア、マラウイ、ザンビア、ボツワナ、ジンバブエ、モザンビーク、スワジランド、


・・・南アフリカまで陸路で。」と、答えたところ係員は何故だか呆れたような表情で


「アフリカがお好きなんですねえ」


 と、言った。もちろんである。私はアフリカが大好きだ。主食がバナナの国とか、外国人を「ユー!ユー!」と呼ぶ国とか、バスが朝の4時に出発する国とか、街を歩いただけで武装強盗に襲われる国とか、私はそんなアフリカの国々が本当に大好きで、あんまり好きになりすぎて最近では


「アフリカでの思い出を消したい。」


 とか、


「もう二度と行くもんか。」


 と、思っているくらいである。それでそのように和気あいあいと係員とハナシをした後、ゲートを抜けようとしたのだが、私は係員に呼び止められた。何だろう?スーパーバックパッカーのサインが欲しいのだろうか?それとも一緒に写真を撮りたいのだろうか?いずれにしても私は厳格なバックパッカー界の中で徳を積むことのみを目的に生きる人間であり、サインや写真というような軽薄な行為は許されていないので、「残念ながらお断りする」と言おうとしたら


「申告が必要なモノはお持ちじゃありませんか


 と、尋ねてきた。どうやらサインが欲しかったわけではないようだ。しかしそれにしてもこの係官の質問もおかしくはないだろうか?質問の意味が全くわからない。だって私は申告をするものが無いから『 Nothing To Declare 』のゲートに来たのである。全く意味がわからない。だが、ここで文句を言うのも大人気ないので私は


「いえ、何も持っていません。」


 と、いつもの『さわやか笑顔』を見せながら答えた。すると係員はニコニコしながら


「では荷物の中身を見せて下さいね。」


 と、こちらも私に対して『微笑返し』で要求してきたのである。


・・・・・超ヤバイ。私の『さわやか笑顔』が全く効果が無いなんて。こんなことはアフリカでは一度も無かった。私の最強の必殺技が通用しないとは、さすがマルディーニだ。カテナチオだ。ゴールはもう目の前だというのに、なかなかそこに辿り着けない・・・なんて考えている間にも、マルディーニ(係員)は私のバックパックの中身を探っていく。そのときの私の心情を文章にするならば


「僕はドキドキしていた」


 という感じだ。ハッキリ言って私は『北の国から』の純クンばりに緊張していたのである。しかし緊張はしていたものの、一方ではまた自信も持っていた。何故なら私はこれあるを予期して『〇〇本』をカモフラージュしていたのである。いったいどんなふうにしていたのかといと、実は『〇〇本』をTシャツやトランクスで包んで衣類圧縮袋に入れておいたのだ。まさか衣類の袋の中に『〇〇本』が入っているとは誰も思うまい。「男性の下着が大好き」という奇特な人間でない限り、見破ることは不可能だろう。我ながら素晴らしいアイデアと、先見の明だ。アフリカでも私はこの先読みの能力で、数々のトラブルを予測し、回避してきたのである。さすがは私、スーパーバックパッカーだけのことはある。一部の心無い読者の中には


「それならどうしてスーダン暴動を予測できなかったのか」


 と、指摘する者もいるかもしれないが、そんな指摘はこの際無視することにしよう。そしてそんなことを言っている間にも、マルディーニの触手は私のバックパックの中に伸びていき、私に向かって質問する。


「これは何ですか?」


 それは私が旅の間に使用していたノートパソコンだった。だから私は素直にこう答えた。


「旅先でホームページを更新していたんです。」


 答えるときに一瞬、「ブログ書いてただけで、ホームページの更新なんて全然してなかったじゃねーか。」という読者の声が私の耳をかすめたが、これは聞こえなかったことにした。そして更にマルディーニの追求は続く。


「これは何ですか?」


 それはDVD-Rのディスクだった。中のデータは映画である。これは旅の間に知り合った


タビフーフ


 という素敵な御夫婦から映画のデータで『8マイル』、『Shall we dance ?』、『華氏911』をいただき(アリガトね)、それを書き込んだものである。ちなみにこのタビフーフの旦那は映画のデータを私にくれるかわりに、私のパソコンから『アダ〇ト・ビ〇オ』のデータをコピーしていったが、あのデータがどうなっているのかが非常に気がかりである。それ以前にどうして純情バックパッカーである私のパソコンに『アダ〇ト・ビ〇オ』なんて入っているのか、不思議に思った女性読者も多いと思うが、これは全てエジプト・カイロのスルタンホテルが悪いと、責任転嫁しておこう。


まあ結果から先に言うと、バックパッックは散々調べられたけれど『〇〇本』は発見されずに空港を出ることができた。私は最後の壁カテナチオを突破し、無事に日本へ帰国したのである。最後までいろいろあったけど、非常に内容の濃い充実した旅だった。このブログを見て「アフリカ大陸を縦断したい」と思った読者もいるのではないだろうか?そんな人達のために私から一言アドバイスして、今回の記事をしめくくりたい。↓




スーパーバックパッカーのアドバイス


「日本に『無修正〇〇本』を持ち込む際には、衣類でくるんでしまおう。」


 以上


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注釈:以下の単語は全てサッカー用語です


カテナチオ   ― イタリア語で「カギをかける」という意味。相手フォワードにディフェンダーをマンツーマンでつけ、更にリベロを余らせる守備重視のイタリア代表の戦術。
ネスタ     ― アレッサンドロ・ネスタ。イタリア・セリエAのACミラン所属。イタリア代表ディフェンダー。
マルディーニ  ― パオロ・マルディーニ。同じくACミラン所属でイタリア代表ディフェンダーでキャプテンでもある。
シェフチェンコ ― アンドリュー・シェフチェンコ。ウクライナ代表の点取り屋。現在イタリアでプレーしている。