現在はモザンビークのベイラという街に滞在中。ちなみにその前はジンバブエの首都ハラレという所にいたのだが、ここには約3週間滞在した。かなり長い滞在だったが、これは別にただダラダラしていたというわけではなく、同じ宿(日本人が多く泊まる宿)に滞在していた日本人旅行者達と
「年越しにスーパーで買った小麦粉でウドンを打ち、醤油でツユを作り、それを短波ラジオで紅白歌合戦を聞きながら食べた。」
とか、
「他の旅行者宛てに日本から送られてきた『ハウス・バーモンドカレー(甘口)』のルーで作ったカレーライスをご馳走になった。」
とか、ジンバブエでしか体験できない事が盛り沢山で、あまりにも有意義だったために滞在が長期化しただけのことである。決して「沈没」していたわけではないので、そのあたりは誤解の無い様にお願いしたい。
それにしてもここ(ハラレ)の宿で出会った日本人旅行者は皆アクの強い人達ばかりだった。とにかく凄い人達ばかりだったけれど、その一部を紹介すると
「既に大学に7年も在籍していて(現在休学中)、髪型はスキンヘッドだけど、趣味は『部屋の模様替え』という男性。」
とか、
「彼女を日本に残してアフリカ(アンゴラとかコンゴとか)を旅しているのだが、何故か『早苗』という、日本にいる彼女とは全く別の女性の名前のついたバイクで旅している男性。」
とか、
「ナミビアでレンタカーを使って砂漠に入ったが、近道しようとして遭難してしまい、おまけに事故って死にかけたけれど、運良くレンジャー部隊に救出されたという夫婦。」
とか、本当に凄い人達ばかりだった。よく言えば『個性的』、悪く言えば『イカレてる』。ユーラシア大陸を旅しているときに知り合った日本人旅行者と比較すると、少なくともアフリカを半年以上旅している旅行者というのはどうもみんな変な人達ばかりだ。実際、その宿に滞在していて常々感じたことは
「普通のマトモな旅行者は僕だけだ。」
ということである。それを端的に示す事柄として、とにかくその宿に滞在していた間、他の日本人旅行者達から
「KOGは本当に純情で、しかも爽やかな旅行者だよね。」
とか
「KOGは大人になっても『少年の心』を忘れていないんだね。」
とか言われてばかりだった。僕はそんなふうに言われて少し照れくさかったけれど、これは事実なので否定しなかった。またそれとは別に、これはとても残念なことだが、彼等には僕の全てが見えていたわけではなかった。確かに『純情』『爽やか』『少年の心』という言葉は僕のイメージを的確に表していると思うけれど、それで全てというわけではない。確かに彼等から見れば僕は「すれてない」旅行者かもしれないけれど、それでももう陸路でアフリカを10カ国以上旅している。ここまでなかなかハードな旅だった。でもハードだった分だけ、いろいろな経験をすることもできた。おかげで有益な旅のテクニックも身に付けることができたし、また無用なトラブルを回避する術を覚えることもできた。
ようするに、僕はただ純情なだけではなくて、
「『純情』だけど、スーパーバックパッカー。」
もしくは
「『少年の心』を持っているけれど、スーパーバックパッカー。」
というのがベストな表現だと思う。ただこんなことを書いていると、あるいは読者のなかには
「ただの自画自賛じゃねーか」
とか思ってしまう心無い人間も、ひょっとしたらいるかもしれない。そういうのは僕としても心外なので、つい最近僕の身に起きた出来事を今回はこのブログに書いて、僕が決して出鱈目を書いているわけではないという事を証明したい。そして僕の「スーパーバックパッカーぶり」というのを改めて皆に再認識してもらえればと思う。
つい先日、僕はジンバブエ側からモザンビーク側へと国境を越えた。国境の地名は「マチパンダ」。変な名前だが、別に「たれぱんだ」の親戚というわけではない。ジンバブエはサファリもできるし、野生動物の宝庫だけど、確かパンダはいないはずである。まあパンダはさておき、このとき僕はちょっとした問題を抱えていた。どのような問題かというと、実はジンバブエの通貨がUS10$ぶんくらい余っていたのである。これからモザンビークに行くので、もうジンバブエの通貨は不要だ。そしてUS10$というのは、ハラレだったら1日暮らせる金額である。つまり、決して「捨てても惜しくない」という金額ではない。
こういう時、我々バックパッカーは国境で「闇両替」をする。本来違法行為だが、旅行者にもマネーチェンジャーにも「罪を犯している」という感覚は全く無い。イミグレーションの役人の前で、気楽に取引してしまう事だってある。ただ注意しなければならないのは、相手に「騙されてはイケナイ」ということだ。チェンジャーはこちらが両替レートについての情報を持っていない事がわかると、我々にとんでもないレートで両替させて、利益をあげようと目論むことがある。
だから事前に両国の通貨に関する情報を集めて、それから闇両替するのが望ましい。もちろん僕はスーパーバックパッカーなので、事前にレートをチェックしていた。抜かりは無い。インターネットで調べたところによると、
1万ジンバブエ・ドルが3千モザンビーク・メティカシュになる
との事。僕が現在持っているジンバブエ・ドルは、ちょうど100万。つまり30万モザンビーク・メティカシュになるはずである。そんな事を考えながら僕はまず国境のジンバブエ側で闇両替に挑むことにした。闇チェンジャーが僕に群がってくる。
(チェンジャー)「チェンジ・マネーしないか?」
(僕) 「いいぜ。」
(チェンジャー)「いくらチェンジするんだ?」
(僕) 「100万だ。」
(チェンジャー)「それなら15万メティカシュだな。」
チェンジャーは何食わぬ顔でそう言った。100万ドルが15万メティカシュ・・・。事前に調べたレートの半分の金額だ。安すぎる。きっとこちらが何も知らないと思ってボッタクろうとしているんだろう。そんな単純な手にのるものか。
(僕) 「冗談だろう。30万にはなるはずだぜ。」
(チェンジャー)「30万なんてとてもムリだ。」
(僕) 「どうして?」
(チェンジャー)「ジンバブエ・ドルの価値は毎日下がっていくんだ。経済危機のせいでな。」
(僕) 「それは知ってるよ。1ヶ月もジンバブエにいたからな。でもレートは昨日調べたばかりだぜ。いくらなんでも15万は安すぎるだろう。」
(チェンジャー)「いや、15万が限界だ。それ以上のレートじゃチェンジできないね。」
チェンジャーはやけに強気だった。しかしここで怯んではいけない。こういうときにこちらが不安な気持ちを表情に出してしまうと、相手はそこにつけ込んでくる。たとえ本心は不安だったとしても、気丈な態度を見せ続けなければならない。バックパッカーというのは時に演技力も求められるのだ。
(僕) 「こっちも15万以下のレートじゃチェンジしたくない。レートが上げられないならモザンビーク側で両替するだけだ。」
(チェンジャー)「モザンビーク側にはチェンジャーはいないぞ。チェンジしたいんならここでしな。」
チェンジャーはそう言って(これは彼等の常套手段だ)、最度15万のレートで両替を持ちかけてきたが、結局僕はジンバブエ側では両替をしなかった。何故ならそのとき僕の豊富な旅の経験が、(あるいは旅の神様が)こう僕にささやいたからだ。
「あせるな。闇両替は国境の向こう側でもできるはずだ。今までの国境越えを思い出せ。どこの国境でも両側にチェンジャーがいただろう?うかつに手を出して損をするなんてナンセンスだ。」
僕はその啓示に従い、モザンビーク側で両替することにした。ジンバブエ側で出国手続きを済ませ、次にモザンビークのイミグレーションで入国手続きを済ませ、僕はモザンビーク領内へと足を踏み入れた。すると数人の男が僕に声をかけてきた。
(チェンジャー)「チェンジマネーしないか?」
やっぱり思ったとおりだ。モザンビーク側には闇チェンジャーがいないなんて、奴らの嘘だったんだ。もし僕がスーパーバックパッカーじゃなかったら、危うく騙されるところだった。僕は自分の判断能力に改めて満足し、その男と両替することにした。
(チェンジャー)「チェンジマネーしないか?」
(僕) 「もちろんだ。」
(チェンジャー)「いくらチェンジするんだ?」
(僕) 「100万だ。」
(チェンジャー)「100ドル両替したいのか?」
(僕) 「いや、100ドルじゃない。100万ドルだ。」
(チェンジャー)「・・・アンタひょっとしてジンバブエ・ドルを両替したいのか?」
(僕) 「そうだ。」
(チェンジャー)「アメリカ・ドルじゃなくてジンバブエ・ドルを両替したいのか?」
(僕) 「だからさっきからそう言っているだろう。」
(チェンジャー)「ジンバブエ・ドルはお断りだ。」
(僕) 「何だって?」
(チェンジャー)「ジンバブエ・ドルなんかモザンビークじゃなんの価値も無いからな。」
(僕) 「隣の国の通貨じゃないか。両替してくれよ。」
(チェンジャー)「ジンバブエ側でやるんだな。」
(僕) 「もうモザンビークに入国しちゃったから、ジンバブエには戻れない。レートはいくらでもいいから両替してくれよ。」
(チェンジャー)「悪いが、できない。じゃあな。」
(僕) 「ちょ、ちょっと、待って・・・」
モザンビーク側の闇チェンジャー達はどこかへ行ってしまった・・・
現在、ジンバブエ経済崩壊中。インフレ年率1000%・・・
それをわかっていながら・・・。ああ、僕の10ドル・・・
ジンバブエ側で換えとけば5ドルにはなったのに・・・
スーパーバックパッカーのはずなのに・・・
どうしてですか? 旅の神様・・・