アフリカ最後の武勇伝 | アフリカ大陸リアルタイム旅日記

アフリカ大陸リアルタイム旅日記

アフリカ大陸を彷徨うバックパッカーが、旅の様子をリアルタイムに報告します。


バスは朝靄の中、パークステーションを目指してハイウエイを滑るように走っていた。そしてそのバスの中では一人の男が窓からヨハネスブルグの街を眺めている。周りの乗客は誰も気付いていなかったが、彼の身体は小刻みに震えていた。しかしそれは不安や恐怖のせいではない。男はこれから始まる闘いに、武者震いしていたのだった。


「ついにやってきたぜ・・・。」


男はそう呟いていた。血塗られた過去を思い出しながら。


エジプトではリビア人に間違われ、エチオピアではテントも無いのに路上で野宿した。ジンバブエでは風邪ひいて高熱を出し、モザンビークでは生まれて初めて南京虫に刺された。そして魔鈴さんとの「ペガサス流星拳」特訓の日々・・・(以上、「血塗られた過去」)。



今思えば、それらの過去は全て今日のこの日のためのプロローグだったように思えてくる。今日、このヨハネスブルグ到着のための・・・。


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旅人の誰もが恐れるという、魔界都市・ヨハネスブルグ。そこでは最強の魔物たちが手ぐすねひいて外国人旅行者を待ち構えているという。彼等の戦闘能力は世界のどの国の強盗団よりも高く、ここを突破するのはブラジル代表FWアドリアーノといえども容易ではない。事実、数々の歴戦を経験した旅の猛者たちの中にも、彼等の刃の前に倒れた者は多いのだ。

しかし俺は負けるわけにはいかない。ここで敗れては遥か遠い日本から俺を応援してくれる、5億8000万人のファンに顔向けできない。スーパーバックパッカーの名に恥じぬ戦いをして勝利し、散っていった戦友たちの仇を討つのだ・・・。

俺はそう誓いながら、ケープタウンのバス・ターミナルからヨハネスブルグへと向かうグレイハウンドに乗り込んだ。ちなみに俺がグレイハウンド社のバスに乗ることになったのには理由がある。実はケープタウン在住の日本人から薦められたのだ。


「いいですか、絶対にグレイハウンド、トランスラックス、インターケープ、この3つのうちのどこかのバス会社を使ってください。ヨハネスブルグのパークステーション内に入るバスはこの3社だけです。他のバス会社だとヨハネスブルグでバスを降りた瞬間に襲われて身包み剥がされます。でもパークステーションの中は安全です。だから必ず直接パークステーションに入ってから、次の行動に移ってください。」


 彼は俺にそう忠告したのだった。そして俺は


「う、うん。わかった。そうするよ・・・。」


 そう言って彼の忠告を0.01秒で勇ましく受け入れた。いや、別に襲われることが怖かったわけじゃない。武装強盗なんて俺の敵ではない。何故なら俺には必殺の「ペガサス流星拳」があるからだ。彼の忠告を素直に受け入れたのはあくまで彼を心配させない為であり、他意はない。


そして今、俺が乗っているバスはヨハネスブルグの中心部へと着々と近づいている。過去を回想するのにも飽きた俺は、昨日から通算すると20回目くらいになる質問をバスの乗務員に投げかけていた。


「こ、このバス、パークステーションの中に入りますよね? 絶対に入りますよね?」


俺は威風堂々とそう質問した。そして乗務員は俺のそんな質問に対し、「そんなに心配しなくても大丈夫だから。」と、答える。彼の表情は優しく、まるで泣いている幼稚園児を慰めるような答え方だった。彼が俺に対して何故そのような言い方をしたのかはわからない。きっと他の人間と間違えてていたのだろう。


やがてバスはハイウエイを降り、ヨハネスブルグの中心地に入った。
しかし中心部入ったにもかかわらず、街からは活気というものが全く感じられない。
まるで見捨てられた街のようだ。
いや、これは気のせいだろう。南ア最大の都市に活気が無いはずがない。

さらにバスは中心部からヨハネスブルグの最深部へと入った。
しかし何故だかわからないが、白人や東洋人が歩くのを全く見かけない。
とても白人が政権を握っていた国とは思えない。
いや、これは気のせいだろう。南ア最大の都市で外国人がいないはずが・・・


「・・・気のせいじゃないし。・・・何だか怖そうな黒人しかいないし。」


どうやらヨハネスブルグはケープタウンとは全然違う街のようである。


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パークステーション


ヨハネスブルグの中心地にありながら、魔物の進入を許さない唯一の聖地。その砦は金属製の強固な柵に囲まれ、多数の衛兵(警備員)による警戒を絶やさない。バスは遂にそのパークステーション内に入ることに成功した。

そして駐車場にはスーパーバックパッカーを出迎える群衆が・・・・・
と、思ったらほとんど人影が無かった。どうやら早朝のせいらしい。仕方ない。歓迎の催しはあきらめてさっさと宿へと向かうことにしよう。スーパーバックパッカーに立ち止まることは許されないのである。だから俺はバスの乗務員にこう言った。


「す、すみません。明るくなるまでバスの中にいさせてもらえないでしょううか?」


 いや、勘違いしないでもらいたい。夜行バスの中で上手く眠れなかったから、もう一眠りさせてもらおうと思っただけだ。決してバスから出るのが怖かったとか、そういうことではない。まあ、そんなことはともかく、俺の問いに対して乗務員はこう答えた。



「悪いがこのバスはヨハネスブルグじゃなくて、次のプレトリアが終点なんだ。だからすぐに出発しなきゃいけないんだ。」

「そんな・・・」

「休みたいならすぐそこにウチのオフィスがあるから、そこで休みなさい。」

「そのオフィスはパークステーションの中にあるのですか?」

「そうだ。だから安全だ。心配するな。」



俺はその言葉を聞くやいなや、バスを出てグレイハウンドのオフィスに駆け込んだ。


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そのオフィスで数時間ビビッテいた休息した後、俺は行動を再開することにした。とりあえず今日泊まることのできる宿へ向かわなくてはならない。俺はガイドブックを開き、安宿をひとつチョイスした。そしてそこに電話をかけることする。何故電話をかけるのかというと、宿から迎えにきてもらうのである。

誤解しないでもらいたいが、俺は一人で宿まで行くのが怖くて迎えにきてもらうわけではない。実はヨハネスブルグの大抵の宿には「無料の」ピックアップサービスがある。これはヨハネスブルグを訪れる旅行者の安全確保のために宿がサービスの一環として行っているのだが、俺の場合はもちろん女神に認められたセイント(聖闘士)だから、自分の身なんて自分で守ることができる。それは魔界都市ヨハネスブルグにおいても同様である。俺がこのサービスを利用するのはあくまで「無料だから」である。スーパーバックパッカーとして、いついかなる時でも倹約の精神を忘れてはならない。決して一人で街に出るのが怖いからとか、そんな理由ではないのである。

そういうわけでパークステーション内の公衆電話から俺は目当ての宿に電話をかけた。相手はすぐに出てくれた。


「すみません。今日そちらに宿泊したいんですが。」

「部屋は空いてるから泊まれるよ。」

「あと無料でピックアップしてくれるってガイドブックに書いてあるんですけど・・・。」


「うん、できるよ。ただこれからチェックアウトする宿泊客をを空港に送って、それからまた別の宿泊客を空港から拾って来なきゃならないんだ。だからパークステーションに行けるのは2時間後くらいになっちゃうけど、それまで待てるかい?」



「待てます!待てます! 2時間でも20時間でも待ちますから、必ず迎えに来てください!!!」


約2時間後、宿からの迎えがパークステーションにやってきた。俺は彼等に連れられて、中心部から離れたヨハネスブルグ・イーストゲート地区にある宿にクルマで無事に送り届けられた。結局ヨハネスブルグ初日、俺の身には何事もおこらなかった。俺は最危険地帯を無傷でパスできたのだ。まあ無傷なのは当たり前だ。だって魔物達が襲ってこなかったのだから。しかし魔物達は何故襲ってこなかったのだろう・・・・・


・・・・・そうかわかったぞ!、魔物たちは逃げ出したのだ。奴らにはわかっていたのだ。俺に立ち向かっても勝てるわけがないと。だから襲ってこなかったのだ。そうだ、きっとそうに違いない!


決して


「メチャクチャ怖かったので、ヨハネスブルグ到着で強盗に一番襲われにくい方法を使った。」


 から襲われなかったとか、そういうことではないので、くれぐれも読者の方々には勘違いされないようにお願いしたい。