どんなに勇猛果敢な戦士にも、時には休息が必要である。それはたとえスーパーバックパッカーといえども、例外ではない。僕ぐらい高レベルのバックパッカーにとって、陸路アフリカ縦断なんてお茶の子サイサイ、赤子の手をひねるよりも簡単なことだから、今回の旅で辛いと感じたことなど一度もないし、ましてや泣き言を吐いたことなんてあるわけがないけれど、本音を言うとさすがにちょっと疲れた。
だから僕は日本へ帰る前に少し休憩しようと思っている。休憩する場所は東南アジアのタイに決めた。別にこのまま南アで休憩してもよかったんだけど、安宿のドミトリーで一泊1300円という「スーダン暴動」よりも恐ろしい物価高の為に、これ以上の南ア滞在は不可能と判断し、さっさとこの国を出ることにした。
そういうわけで先日、現在滞在しているケープタウンの旅行代理店でタイ行きのチケットを探したところ、なんと最安の片道でかるく10万円を超えるという。ちょっと信じられない価格だ。高すぎる。そこで困った僕は担当してくれた女性にいろいろと相談したのだが、彼女によればケープタウンからではなくてヨハネスブルグから飛べばかなり費用を節約できるという。しかし・・・・・
ヨハネスブルグ
最凶最悪犯罪都市。戦時下の都市を除けば「世界で最も危険な街」と呼ばれる都市である。ケープタウン在住の日本人によれば
「外国人が街の中心部を一人歩いたら、平日の昼間でも200%の確率で襲われる。」
そうなのだ。首締め強盗、銃器を持った武装強盗は言うに及ばず、男性でもレイプされることが多々あったりして、全ての面においてあのナイロビの比ではないという。
恐ろしいハナシだ。しかしながら、ちょっと恐ろし過ぎやしないだろうか?だいたい人から聞いたハナシというのは次第に尾ひれがついていくものである。ヨハネスブルグについての情報も旅人の間を渡っていくうちに誇張されたのではないのだろうか? きっとそうに違いない。
そう思った僕は正確な情報を得るために、現在僕が最も信頼しているガイドブック「ロンリープラネット・サザンアフリカ」を開き、ヨハネスブルグのページを読んでみた。そしたらこんな項目があった。
「SARVIVING IN JOHANNESBURG」
(ヨハネスブルグで生き残るには)
・・・・・ヒドイ。最初は筆者がジョークで書いたのかと思ったけど、その項目を読んでみると、どうやらマジで書いているようである。さすがにこれはちょっとヤバすぎる。このぶんだと僕のような少年らしく清々しい好青年なんてきっと格好の標的となってしまうに違いない。
ハッキリ言って行きたくない・・・。
僕は自分がどうすべきか、かなり時間をかけていろいろと考えた。ケープタウンからバスでヨハネスブルグまで行き、そこから飛べば確かに飛行機代は節約できるかもしれない。でもそれが何だというのだ。ヨハネスブルグに行くにしたってバス代がかかるのだ。いくらかかるのか知らないが、少なくともタダではない。それを考えれば合計で節約できる交通費なんてたいしたことないだろう。日本人から見ればきっとたいした金額ではないはずだ。そんなはした金のために命や貞操を失うなんて馬鹿馬鹿しいことだ。
そういうわけでヨハネスブルグから飛ぶのはやめることにした。ただ、ひょとしたら本当にお金に困っていてヨハネスブルグから飛ばざるを得ない日本人バックパッカーと数日以内に出会うことがあるかもしれない。そのときに正確な情報を提供することができれば、きっと喜ばれることだろう。心優しい僕は一応バス会社のオフィスへ行き、ヨハネスブルグ行きのバス代を尋ね、ケープタウンから飛ぶのと比べてどのくらい金額に差が出るのか調べることにした。
以下、バス会社での会話。
(僕)「すみません。ヨハネスブルグまでのチケットはいくらでしょうか?」
(係)「270ランドよ。」
(僕)「えっ?そんなに安いんですか?」
(係)「普段は450ランドくらいするんだけど、今は2月28日までの期間限定割引中なのよ。」
(僕)「そうなんですか。それにしてもすごい割引ですね。」
(係)「ところであなたは学生? 学生証持ってる?」
(僕)「ええ、持っていますけど。」
(係)「持っているなら、270ランドから更に5%割引できるから256ランドになるわよ。」
(僕)「256ランド? 本当に? じゃあ買います! 今すぐ買います!」
ヨハネスブルグまでのバス代256ランド。本来450ランドが256ランド。43%OFFだ。ビッグカメラも真っ青の割引率じゃないか。いやあ、かなり得したぞ。よかったよかった、って・・・・・
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ウソ! 俺、ヨハネスブルグ行きのバスチケット買っちゃったよ!つい勢いで買っちゃったよ!
・・・・・どうしよう。つい勢いで買っちゃったけど、本当にどうしよう。とにかくまず落ち着こう。そしてしっかりと対策を考えよう。きっと何か良い方法があるはずだ。
それからとりあえず僕はそのバスチケットを無駄にしないために仕方なく
「ヨハネスブルグ → バンコク」
のエアチケットを購入した後、宿へ帰ることにした。宿への道すがら僕は今後の対策についていろいろと考えた。
いくらヨハネスブルグが危険と言っても、全ての旅行者が被害に遭うわけじゃない。餌食になっているのは多くの場合、個人旅行者だ。そうだ、誰か誘えばいいのだ。仲間を募ってグループで行くならリスクも軽減されるに違いない。
「一人一人は小さくても、みんなで力を合わせればきっとできるはず。」
素晴らしい考え方だ。まるで「週間少年ジャンプ」のメインテーマのようだ。いつまでも少年のような心を忘れない僕だからこそ思いつくことができたアイデアだ。そして僕は意気揚揚と宿へ帰り、同じ宿に滞在している日本人旅行者達に、
「みんなで力を合わせてワールドカップヨハネスブルグに行こう!」
と、大空翼クン(キャプテン翼)なみの朗らかさで声をかけてみた。すると僕の想いとは裏腹に、皆それぞれ自分の予定があるので、残念だけど僕と一緒にヨハネスブルグに行くことはできないと答えた。でも彼等は僕と一緒に行けない代わりに、僕にとても温かい言葉をかけて激励してくれた。こんなふうに。
「絶対に嫌だ。」
「どうしてそんな危険な所に行かなきゃいけないの。」
「死にたければ一人で死ね。」
あまりに温かい言葉だったので、本気で泣きそうになった。
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ええい、もうゴチャゴチャ考えるのは止める!強盗だかレイプだか知らないが、襲われたら返り討ちにしてやればいいだけのことだ。いつでもかかってこい。ペガサス流星拳(聖闘士星矢)でぶっ飛ばしてやる。あの技なら1秒間に100発も撃てるから、たとえ20人に襲われたって大丈夫だ。
そうそう、大丈夫さ。心配ない。もうヨハネスブルグのことなんて考えないで、そのあとのタイでの過ごし方でも考えよう。
あー、タイ本当に楽しみだなあ。
タイに行けば、タイに行けばきっと
安くて美味い料理を食べることができるだろうなあ。
安くて快適で安全な宿に泊まることができるだろうなあ。
アフリカと違って日本語が使えるネットカフェもすぐに見つかるだろうなあ。
そうすればこのブログもすぐに更新できるだろうなあ。
少なとも2週間以内には次回の記事をアップできるだろうなあ・・・・・だけど、
だけどもし2週間経ってもこのブログが更新されないときは、誰でもいいから
「在南アフリカ共和国日本大使館」に連絡して!
お願いだから連絡して! あとついでに僕の家族にも連絡して・・・・・
P.S 日本からの電話のかけ方
在南アフリカ共和国日本大使館 +27(12)4521500
大使館に連絡する際には、こんなふうに伝えてください。
「少年のような心を持ったスーパーバックパッカーが、まさしく少年らしくヨハネスブルグで迷子になってしまったので探してください。」
みんなよろしくね。